投高打低の進展とロースコアゲームの増加は救援投手の価値を高めたのか?

ここ数年、「NPBは投高打低の時代に入った」と言われて久しい。実際にシーズンを通して、点の取り合いよりもロースコアで終盤まで競る試合が増えた印象を持っているファンは少なくないはずだ。
こうした環境下に置いて真っ先に注目されるのが救援投手である。「ロースコアゲームが増えたなら、終盤の数イニングを任されるリリーフの価値はますます高まっているのではないか」。直感的にはそう考えたくなるが、本当にデータも同じことを示しているのだろうか。
本記事では、2014~2025年シーズンのNPB全試合を対象に、「ロースコア化」「僅差ゲームの増加」「救援投手の貢献度」という3つの観点から、この問いを検証していく。
データソースと指標の意味
◯ データソースと対象
データは、セイバーメトリクス指標を用いてプロ野球の分析を行う株式会社DELTA(1.02)の公開データを参照した。対象は以下のとおりである。
- 分析期間:2014~2025年シーズン
- 対象リーグ:NPB(セ・パ両リーグ)
- 対象選手:各シーズンに登板した全投手
- 先発・救援の定義:
- 「先発として投げたイニング数 ÷ 総投球回」が 0.5以上の投手を「先発投手」
- それ以外を「救援投手」として分類した
以降、先発と救援を比較するグラフはいずれもこの定義に基づいている。
◯ 本記事で用いる指標
本記事では、投手の貢献を評価するために、次の4つの指標を用いる。野球やデータ分析にあまり詳しくない読者にもイメージしやいただきやすいように、できるだけ直感的な言葉で整理する。
- WAR(Wins Above Replacement)
「控えレベルの投手と比べて、何勝ぶんチームを上乗せしたか」を表す指標。失点の少なさだけでなく、投球回数や守備・味方打線の影響を調整したうえで、総合的な価値を1つの数字にまとめている。値が大きいほど「シーズンを通じて、どれだけ勝利に貢献したか」が大きい。 - WPA(Win Probability Added)
「試合中の一球一打が、勝つ確率をどれだけ動かしたか」を積み上げた指標。同じ1点を防いだとしても、5点リードの場面より、同点の9回裏で抑えた方がWPAは大きくなる。つまり、試合の流れや場面を考慮した“勝負強さ”の指標と言える。 - RE24(Run Expectancy 24)
「投球前後の、得点期待値の差」を24種類(アウトカウント×走者配置)の局面ごとに計算し、合計した指標。スコアや回は問わず、純粋に「どれだけ失点を防いだか/増やしてしまったか」に着目している。WPAほどドラマ性はないが、試合状況に関係なく、投球そのものの質を評価する指標と言える。 - Leverage Index(LI,本記事内ではexLI)
1打席ごとの「重要度」を示す指標。同点終盤・満塁のような場面ではLIが高く、大量リードの序盤はLIが低くなる。本記事内で用いるexLIは、投手が登板した打席のLIを平均した数値で、「その投手が普段どれくらい重要な場面を任されているか」を表す。
これらを組み合わせることで、「シーズン全体での貢献量(WAR)」「勝負どころでの仕事ぶり(WPA・RE24)」「どれだけ重要な局面を任されているか(exLI)」という3つの側面から、救援投手の価値を立体的に見ることを目指す。
NPBはどれほど得点が入りづらくなっているのか
まず、そもそも「投高打低」は本当に進行しているのかを確認する。

シーズンごとの1試合あたり平均得点(全体・セ・パ別)を見ると、2018~2020年頃にかけては1チーム平均で4.1~4.3点前後のシーズンが続いていた。しかし2021年以降は明確な下降トレンドに入り、2024~2025年には3点台前半まで低下している。
グラフ上でも、3つのライン(全体・セ・パ)がそろって右肩下がりとなっており、「たまたま特定リーグだけ打てていない」というより、NPB全体でロースコア化が進んでいることが分かる。
僅差のゲームは本当に増えたのか
次に、各試合の点差分布を確認する。2014~2025年の全試合を、「1点差」「2点差」「3点差」「それ以外」に分けて構成比を算出したのが以下のグラフだ。

2010年代中盤には、3点差以内の僅差のゲームの割合は60~65%程度にとどまっていたが、2022年以降は3点差以内の試合が全体の6割台後半に達するシーズンが目立つ。特に2023年は67.3%、2025年は67.2%と非常に多くの試合が数点を競り合う僅差の試合展開となっていることがわかる。セ・パ両リーグともに点が入らず、僅差の試合が増えた――ここまでで、直感的な環境認識はデータによって裏づけられたと言ってよいだろう。
WARから見えること/見えないこと
では、こうした環境変化は、救援投手の価値をどの程度押し上げたのか。まず先発と救援のWAR合計を比較すると、2014~2025年を通じて、先発投手のWARが常に救援を大きく上回っている。

救援WARが相対的に高いシーズン(2019年など)はあるものの、長期的なトレンドとして「救援の比率が右肩上がり」というほどではない。救援WARの全投手WARに占める割合(貢献比率)を見ても、2019年に一時的に3割近くまで達した後、2023年には1割を切る水準まで低下している。その後やや盛り返すものの、貢献比率が一貫して上昇しているとは言い難い。

ここから分かるのは、
- WARは「年間を通じたイニング数」を強く反映するため、そもそも投球回の多い先発が有利である
- ロースコア化や僅差ゲームの増加が、そのまま救援WAR比率の上昇にはつながっていない
という2点だ。
したがって、「救援の重要度が上がったかどうか」をWARだけで判断するのは難しい。そこで、本記事では勝負どころの重みを加味する指標(WPA・RE24・exLI)に視点を移す。
WPAが映す“終盤の仕事ぶり”
◯ 救援はもともと「勝敗に直結しやすい」ポジション
WPAの推移を見ると、2010年代中盤は救援投手のWPA合計が先発を上回るシーズンが多い。先発のWPAがマイナス域をうろうろする一方で、救援は常にプラスを維持しており、「リードを守る/ビハインドを最小限にとどめる」役割が、勝敗に直結していたことがうかがえる。

◯ 投高打低期に入ってからの変化
ところが、平均得点が落ち始めた2021年以降、様相は少し変わる。
- 先発WPAが大きくプラスに振れ、2023~2025年には救援を上回る水準に
- 救援WPAも上昇しているものの、「救援だけが突出して勝敗を動かしている」わけではない
ロースコア化により、序盤からの1失点・1得点の価値が高まり、結果として先発も「勝敗を大きく左右するイニング」を担うようになっていると解釈できる。
WPAの観点から言えば、「投高打低だから救援だけが重要度を増した」というより、“投手全体”の1球の重みが増し、その中で救援も引き続き大きな役割を担っている、というのが実態に近いだろう。
RE24で見る「純粋な投球の価値」
RE24は、スコアやイニングに関係なく、「走者とアウトカウントの状況から見て、どれだけ失点を防いだか/増やしたか」を測る指標だ。

このRE24の推移を見ると、
- 救援RE24は、ほとんどのシーズンでプラスを維持している
- 一方で先発RE24は、2014~2018年頃はマイナス寄りだったが、2020年以降はプラスの大きな値を記録するシーズンが続いている
つまり、「投高打低」期に入ってから、先発投手の“投球そのもの”の貢献度が大きく改善している。救援も安定してプラスを稼いでいるが、「救援だけが格段に良くなった」というより、リーグ全体の投手力向上の中で、先発・救援の双方が価値を高めているという構図が読み取れる。
Leverage Indexが示す、救援起用の変化
ここまでを見ると、「救援の重要度は思ったほど上がっていないのでは?」という印象を持つかもしれない。しかし、どの場面を任されているかに目を向けると、救援の立場の変化がよりはっきりと見えてくる。

平均Leverage Index(exLI)の推移を見ると、
- 2016~2020年頃までは、救援exLIは1.03~1.10前後で、先発よりやや高い程度
- 2022年以降、救援exLIは1.12~1.15前後まで上昇し、先発との差が広がる
exLI=1.0が「平均的な重要度」とすると、1.1以上のシーズンでは、救援は常に平均より1割以上“重い”場面を任されている計算になる。これは、ロースコアで僅差の試合が増える中で、
- 接戦終盤の重要な打席は、できるだけ救援に集中させる
- 先発は球数や打者の巡目に応じて早めにスイッチし、終盤の「勝敗を決める場面」はリリーフに託す
といった、「ゲームを6~7回で区切り、残りを救援に任せる」タイプの運用が強まっていることを示唆している。
救援の価値はどこまで上がったのか
ここまでの指標を総合すると、次のように整理できる。
- 平均得点の減少と僅差ゲームの増加により、1点の価値が高まっている
- その結果、WPA・RE24の観点では、先発・救援ともに「1球の重み」が増している
- ただしexLIを見ると、勝敗を決定づける場面は、以前よりも救援投手に集中している
つまり、シーズン全体での貢献量(WAR)という意味では先発の比重が依然として大きい一方で、「ここを抑えれば勝ち」という最終局面は、より救援に託されるようになった。これが、ロースコア時代における救援投手の立ち位置だと言える。
定性的な要因
最後に、データだけでは捉えきれない定性的な要因にも触れておきたい。ロースコア化と僅差ゲームの増加の背景として、現場レベルでは次のような指摘がされている。
- 平均球速の上昇と分業制の進化
1試合のうちに、150km/h以上のボールを投げる投手と複数回対戦するケースが増えた。先発を早めに下ろし、1~2イニング限定で全力投球する救援を継ぎ込むスタイルは、打者にとって「同じ投手と複数席続けて対戦する」機会を減らし、攻略を難しくする。 - ホームランバッターの減少と“1発の恐怖”の薄れ
2000年代~2010年代前半に比べ、各球団の「典型的なホームランバッター」の人数は多くない。その分、一発長打による大量失点リスクが減り、投手はストライクゾーン内で積極的に勝負しやすくなっている。 - 助っ人外国人リリーフの質の高さ
近年のNPBでは、150km/h台後半の速球と鋭い変化球を投げる外国人リリーフが各球団に在籍している。彼らが終盤のイニングを食うことで、「試合終盤ほど打つのが難しい」という構図がより強まっている。
こうした定性的な変化が、データで見えるロースコア化・僅差ゲームの増加と整合的である。そしてその延長線上に、「質の高い救援投手に早めに継投する」という現在のトレンドがある。
まとめ
本記事の問いは、「投高打低時代でロースコアの試合が増えたことで、救援投手の重要度は本当に上がったのか」であった。
- 平均得点の低下と僅差ゲームの増加から、1点の価値は確実に高まっている
- WARベースでは、救援の比率が一貫して上昇しているわけではなく、先発の存在感は依然として大きい
- 一方でexLIは、近年の救援がより高レバレッジの場面を集中的に任されていることを示している
- WPA・RE24からは、「先発・救援ともに、1球の価値が重くなった世界で戦っている」姿が浮かび上がる
結論としては、「ロースコア時代は“救援だけ”の時代ではないが、“試合の最終局面を預かる救援の1球”は、これまで以上に重くなっている」と表現するのが妥当だろう。
今後、より極端なロースコア化やリリーフ分業の細分化が進めば、救援投手の役割と評価はさらに変容していく可能性がある。そのとき、どの指標で彼らの価値を測るべきか。今回の分析は、その問いに向き合うための第一歩と言えるかもしれない。





