ラップタイムの安定性は真の強さの指標となるか? 2025年F1中盤戦から読み解くその答え

シーズンも折り返しを過ぎた2025年F1世界選手権。マクラーレンの二枚看板、ピアストリとノリスが圧倒的な速さと安定感でドライバーズランキングを牽引するなか、フェルスタッペンが久々の勝利を挙げた第16戦イタリアGPまでの戦いを経て、“見えにくいパフォーマンス”を可視化するデータが注目されている。
今回はFastF1 APIを用い、決勝レースにおけるラップタイムの安定性(変動係数:CV)を分析。速さそのものではなく、いかに安定して速く走るかが、現代F1でどれだけ重要な指標になっているのかを探った。はたして、ラップのばらつきが少ないドライバーは強いのか? そして、そこから見えてくる各チームの哲学やマシン特性とは。
ラップタイムが安定しているドライバーが速いとは限らない?
本記事を執筆している2025年9月10日時点で終了している全16戦の決勝レースにおいて、各ドライバーのラップタイム(一定条件に基づき外れ値を除去)から変動係数(CV)を算出。これはラップタイムのばらつき度合いを示す指標で、CVが低いほどより安定したペースで走行していたことを意味する。

集計の結果、最も安定していたのはルクレール(ドライバーズランキング5位)。これにラッセル(4位)、オコン(13位)、ボルトレート(16位)、ハミルトン(6位)らが続いた。ランキング上位勢に安定したドライバーが多い傾向は見られるものの、オコンやボルトレートのようにポイント獲得が伸び悩んでいる例もあり、「安定=結果」では一概に語れない複雑さも垣間見える。
下位にはアルボン、ガスリー、アロンソといったドライバーが並び、日本の角田は14位。第3戦以降レッドブルへ昇格した角田だが、レーシングブルズ時代からラップタイムの安定性には定評があり、ドライバーズランキング19位と苦戦する現状は、レッドブルのチーム戦略やマシン特性が大きく影響しているように思われる。
レッドブルのマシンは究極の空力性能を追求するゆえに、走行性能を最大に発揮するパフォーマンスウインドウが非常に狭い設計が特徴。その領域に収まったときには驚異的な速さを見せる一方で、ほんのわずかな入力・車高の変化でグリップが急激に低下し、不安定になるという“綱渡り”のようなマシンでもあり、高性能ゆえの尖った性質が、角田のように安定したラップを刻めるドライバーでも、時としてマシンの癖に翻弄されてしまう理由になっていると考えられる。
ラップタイムの安定性と獲得ポイントの関係性
つづいて、CVと年間獲得ポイントの関係性を分析したところ、相関係数は -0.39となった。これは統計的には「弱い相関」と分類される数値だが、それでも一定の傾向は読み取れる。すなわち、ラップタイムの安定性が高いドライバーほど、より多くのポイントを積み重ねる傾向がある。

典型例がピアストリとノリスのマクラーレン勢だ。2人は低CVと高ポイントの両方を兼ね備え、今季の絶対的な強さを支えている。反対に、CVが高い=ラップのばらつきが大きいドライバーには、戦略の影響を受けやすかったり、安定してペースを刻めないなどの要因が絡み、ポイント獲得に苦戦している傾向にある。
ハースの健闘とチーム別のマシン特性から見えるもの
チームごとの平均CVを比較すると、最も安定していたのはフェラーリ。これにハース、マクラーレン、キック・ザウバーが僅差で続く。

注目すべきはハースの存在だ。ポイント面では決して目立っていないが、安定性ではトップクラスの数値を記録している。その背景には、ドライバーの堅実な走りだけでなく、マシンが一定の条件下で安定した挙動を示す特性があると考えられる。エアロバランスやトラクション性能は突出しないものの、乱れの少ないマシン特性は安定的なラップタイムに寄与する。また、大胆な戦略を取らず「確実な走行」を重視するチーム方針も、CV値の向上に一役買っている可能性が高い。
対照的に、アルピーヌやウィリアムズは高CV=不安定な傾向を見せており、マシンの扱いづらさや戦略の迷走が成績に影響を与えている。
揺らがぬ速さは、真の武器になり得るのか?
今回のラップタイムの安定性分析は、単なるスピードの比較では見えてこないドライバーとマシンの内面を浮き彫りにした。たとえば、マクラーレンは極めて再現性の高いマシンパッケージを構築し、どのサーキットでも安定したペースを刻むことでポイントを積み重ねている。ドライバーの力量に加え、戦略の安定性やタイヤ管理能力も高く、低CVのデータはその総合力の高さを裏づける。
一方、レッドブルは高いピークパフォーマンスを持つRB21で速さを発揮しながらも、非常に狭いパフォーマンスウインドウにより、ドライバーの繊細なコントロールとセットアップ精度が要求されるピーキーなマシン特性が露呈。フェルスタッペンのように卓越したドライビング技術を持つドライバーですら、時にマシンの癖に振り回される場面も見受けられた。
こうした差異が、単なるランキングだけでは語れない“安定した速さ”の重要性を物語っている。CVはその信頼性の高い可視化手段の一つであり、今後もパフォーマンス分析において重要な視点を提供しうるだろう。